「女みなと会議」からの提言 RECOMMENDATION

1.はじめに

来るべき「環日本海交流の時代」において、山形県が発展を続けていくためには、世界につながる門戸である酒田港を大幅に整備強化して、使いやすく親しみやすくすることが不可欠です。古くは三十六人衆に代表されるように、酒田港は町衆の力によりおおいに発展してきました。今日まさに、県民の共有財産である港を、県民各層の多様なアイデアを取り人れながら大きく飛躍させていくことが 21世紀への重要な課題となっています。港は県民の窓。窓を大きく開かなければ光も風も入りません。

しかしながら、現状は、平成10年度県政モニターの報告書に見られるように県民の酒田港への興味や関心はあまり高くなく、港の 計画や整備・運営への県民参画も限られた範囲にとどまっています。これからの酒田港が果たしていくべき多様な役割を考えると、港湾のメリットを分かりやすく示し、たくさんのひとびとの参画が得られるよう早急に改善すべきであるといえます。

また、これまで、港の物流や生産活動、さらには港湾の建設・運営といった分野は、そのほとんどが男性の視点で男中心に行われてきましたが、酒田港のより一層の飛躍をめざすには、女性、子を育てる母の視点からの参画がとりわけ重要であるといえます。そこが男女共同参画社会において重大な課題であるといえます。

私たち「女みなと会議」は、港湾政策に女性の声を取り入れていくことこそが、港の計画・整備・運営へ県民の参画拡大の第一歩として重要であるとの意見で一致しました。そこで、酒田港が進むべき方向について議論を重ね、ここに政策提言をとりまとめました。

私たちは、これからも、県内各地域において酒田港の発展に向けた議論の輪を広め、また、それらの議論をもとに、地域の活動としてわれわれ一人ひとりが酒田港振興に向けた活動を実践していきたいと考えています。

2. 基本的な考え方

酒田港を、女性も男性も、子供もお年寄りも、県民誰もが愛着を持つことができる港としていくことが何よりも重要です。そのためには、港の計画・整備・運営に多くの県民の広範な意見を採り人れていく必要があります。私たちは、港を県民の窓と位置づけ、県民の積極的な参画を得られるよう、つぎの2つに重点をおき、港湾の振興に関する諸施策を展開していくべきであると考えます。

(1)山形らしい風格のある県民の港づくり

酒田港は県民全体の貴重な共有財産です。県民がこの酒田港に身近な愛着と誇りを持つことができるよう、山形の伝統と文化を踏まえ、酒田港を山形らしい風格のあるものとしていくことが重要です。とりわけ、内陸部において、県民の港への関心は極めて低い現況にあることから、港湾行政の推進にあたっては、「庄内の港」ではなく、「山形県民の港」であるということに常に留意していくことが必要です。

(2)山形の国際化を強力に牽引する港づくり

いまや地域の経済社会は、その規模を地球単位に拡大させながら進展しつつあります。これは一方では社会経済に構造変革を強いるなど痛みと知恵とエネルギーを伴うものですが、本県が新世紀においてさらなる発展をめざしていくためには、地球規模の経済活動は必要不可欠な要素です。本県は地理的にも環日本海交流圏の中心部に位置するなど、ほかの地域にくらべて高い潜在発展力を有しています。これまでも、「東方シルクロード」のような先駆的な事例が全国的に注目を集めているところですが、今後とも、世界に開かれた門戸としての酒田港の機能をさらに活発化することにより、本県の国際化を力強く牽引していくことが必要です。

3.具体的な政策提

(1)県民に愛される美しい空間づくり

①酒田港が広大に広がる美しい庄内平野や日本海、鳥海山の景観と調和し、また、訪れる人々に悠久の歴史と重みを感じさせるような街並みづくりには、景観に気を配り、港の整備を進めていくことか大切です。このため、港全体の景観設計を行い、未来図を定めることが必要です。なお最上川は、ふるくは舟運で栄え、本県のシンボルとして広く県民に愛されていることから、酒田港の景観形成にあたっては川と一体として考えていくことが必要です。また、鉄くず等の見栄えの悪い貨物の取扱などを工夫するなど、景観に配慮した港湾利用計画を策定する必要があります。さらに、ライトアップ等により夜の港についても美しく演出していくことが重要です。

②酒田港に訪れた人か港に来たことを実感できるような、港の「顔」となる空間を、県民のアイデアを取り入れながら、創り上げていくことか必要です。また、港全体をひとつのまとまりとして印象づける、色彩の工夫や案内板のデザイン統一など細部にわたり配慮が必要です。

③最上川の水環境保全とも連携を取りなから、酒田港本港地区の水質改善に努め、酒田港及び最上川河口部に美しい水環境空間を創造していくことが重要です。また、川上と川下を結ぶ最上川のゴミ不法投棄防止運動とも手をつなぎ、港や海岸の美化を進めていくことか重要です。

④マリンレジャーのヨットやモーターボートは港の動く景観を形成する重要な要素であり、マリーナの整備と、それらの保管のあり方、事故防止や管理への配慮が必要です。

(2)港への親近感を持ってもらうための方策

①「酒田北港」の名称は無機質な工業港のイメージを与えるため、平成1 1年度の新国際ターミナルの供用開始を機に、環日本海交流時  代にふさわしい名称に改名すべきです。

②酒田港へのフェリー航路の誘致は、流通港湾としての機能強化の観点から極めて重要ですが、同時にこれは、一般の県民にも大きな便益をもたらし、港への親近感を増すポイントでもあることから、その実現に向け最大限の努力を行うべきです。

③飛島の自然環境を活かした観光振興も、県民の酒田港利用機会を増大させるものであり、酒田港振興の観点からも有意義です。

④内陸部の各地域において酒田港への親近感を育んでいくためには、最上川の舟運により、流域各地と港を結びつけていくことを検討すべきです。特に、酒田港防災拠点から内陸部への緊急物資輸送ルートとしての最上川舟運について検討を進めることは重要です。

⑤県内各地において、さまざまな年齢層の人々が港について学び考え、港づくりに参画するネットワークを拡げていくことが重要です。

⑥小中学校において酒田港の幅広い役割と正しい知識を得ることができるよう、学校関係者に対する情報提供を充実させていくことが重要です。また、山形県酒田海洋センターを一新するなどにより体験学習施設を整備するとともに、多彩な体験学習プログラムを準備していくことが必要です。プログラムには海や川の環境保全の重要性に視点をあてた内容を含めるべきです。さらに、水族館の建設についても検討していくことか重要です。

⑦酒田港の入船情報や水揚情報など酒田港に関する情報を、新聞やテレビ・ラジオで日常的に県民に向けて発信していくことが望まれます。

⑧ポップミュージック、各国の民族音楽や庄内の伝統芸能など多彩な催し物を楽しむことができる野外ステージ等の施設を整備していくことなどにより、酒田港を文化の発信基地としていくことが重要です。

⑨外航旅客船等の寄港機会を増大していくなど、国際的な港でのイベントを継続的に実施していくことが重要です。また、「港まつり」をもっと港そのものを活用したものに見直していくことが必要です。さらに、最上川でのイベントとの連携も検討して行くべきです。これらイベント等の実施にあたっては、情報が県民にひろく行き渡るよう留意することか必要です。

⑩新鮮な庄内地魚を低価格で提供するフィッシャーマンズワーフを整備するなど、賑わい空間を設けていく必要があります。賑わい空間では県内の特産品を自由に売買するフリーマーケットを開催するなど、県民参画型の空間としてひろめていく必要があります。また、エスニックレストランや外国製品物産館、外国食材店など、国際港湾の雰囲気を演出する施設の立地を奨励すべきです。外国人船員との交流の場を設けていくことも重要です。例えば、酒田港取扱商品を格安で提供する「酒田港感謝大バーゲン」を開催するなどにより、酒田港の便益を消費者に分かりやすい形で還元していくことも検討する必要があります。

⑪水辺空間を陸側から眺めるだけでなく、逆に海や川から町並みを眺めるとその印象は一層鮮烈なものとなります。このため、サンセットクルージングや新井田川のボート遊びなど、県民が手軽に楽しむことができる船遊びを提供していくことが重要です。

⑫港を舞台としたマリンスポーツの振興と世界的なスポーツ競技の誘致を図って行くべきです。また、鼠ヶ関マリーナとの連携イベント等の実施も検討していくことが重要です。さらに港広場でのレジャー行事や車の乗り入れが出来る駐車場を開放していくことが必要です。

⑬海や海の生物、海浜の自然環境等を生かし、セラピー効果を期待できるマリンプログラムや短期間の療養施設等がこれからはもとめられます。

(3)港をもっと便利にするための方策

①酒田港の利便性を高め、県民に身近なものとしていくためには、日本海と太平洋をつなぐ酒田~新庄~太平洋、酒田~山形~太平洋の高速交通網の整備促進が不可欠です。

②バス路線の再編や連絡バスの運行により、誰でもが利用できる酒田港への公共交通機関による交通の便を大幅に改善する必要があります。また、臨港鉄道を活用した旅客輸送についても検討が必要です。

③酒田港の場所を示すわかりやすい標識を充実させる必要があります。標識には対岸諸国の言語による表示も併記することが望ましいと考えます。

④酒田市の観光案内地図に酒田港に関する情報をより多く取り入れていくことが必要です。また、案内地図は外国語を併記することが不可欠です。

(4)地域産業と港とのパイプの強化

①定期国際コンテナ航路の拡充、物流基盤施設・物流高度化施設の整備等のほかに輸送コストの低減化や365日いつでも利用できるような国際貿易港としての機能強化により、多くの利用を得る必要があります。

②国際物流に関する行政の相談・情報提供窓口を誰もが利用できるようもっと分かりやすいものとするとともに、この機能を強化し、県内企業の国際物流の効率化を支援していく必要があります。

③酒田港を活用して先駆的な事業を行った者・組織を顕彰するなどにより、物流革新を促すことが必要です。

④酒田港の再開発と中心市街地の活性化を連携させて進める必要があります。例えば、共通割引クーポンの導入などの魅力づくりを検討していく必要があります。

⑤本県の重要な産業である観光産業との連携を強める必要があります。このためには、酒田港が有する潜在的な観光資源を活用し、ソフト・ハード両面にわたる整備が必要です。特に、全天候型施設の整備等により冬場の観光客誘致を図っていく必要があります。また、酒田港に国際会議機能を付加していくことも重要です。

⑥これまでも波エネルギー発電実験など酒田港を舞台として技術開発が行われてきましたが、今後は、多様な技術の先端として適した酒田港を、自然エネルギー活用等のベンチャービジネスを行おうとする企業の研究開発の場として開放していくことが重要です。